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1月 19, 2010

「アウシュヴィッツ後の反ユダヤ主義 ポーランドにおける虐殺事件を糾明する」読了

ヤン・T・グロス著「アウシュヴィッツ後の反ユダヤ主義 ポーランドにおける虐殺事件を糾明する」読了。


映画「カティンの森」の如き悲劇的運命を負ってきたポーランド国家で戦後に起きた大規模なポグロム(ユダヤ人迫害)を解明する書。
大国のエゴにより度々侵略と暴虐にさらされてきた悲しきポーランドの民衆だったが、ナチが地上から消滅し、ホロコーストの地獄を生き延びたユダヤ人たちが家に帰ってくると、彼らを同胞として暖かく迎えるどころか、嫌悪し、差別し、はては虐殺して金品を略奪したという。ふと一聴しても信じがたいようなこの歴史的事実の要因、および当時の社会環境を読み解いていく。

主に取り上げられるキェルツェ・ポグロムは前年に起きたクラクフ・ポグロムなどの暴動とあわせて推定千五百人のユダヤ人が虐殺された、平時のポグロムとしては20世紀最悪の規模の迫害だが、その具体的な描写はまさに酸鼻をきわめるとしか言い様がないものだ。
映像が浮かび上がるようで怖ろしく感じたのは鉄道駅上での事件のくだり。

「鉄道でのユダヤ人襲撃は数ヶ所の駅で発生したが、一件ずつの時間は短いのが普通で、列車の停車時間を上回ることはほとんどなかった。襲撃は列車の乗客と駅に集まっていた積極的な市民との共同作業として行われた。犠牲者の頭を打ち砕くための凶器として線路の切断片や鉄道用器具などの重い鉄塊が使われたとの証言がある。虐殺する前にまず乗客の中からユダヤ人を選別する必要があったが、この作業にはボーイスカウトがとりわけ積極的な役割を果たしたといわれている。」
「チェンストホバからキェルツェへ向かう彼の列車がブウォシチョバ駅で停車すると、キェルツェから来た列車がプラットホームの反対側に停車した。プラットホーム越しに向いの列車からキェルツェ・ポグロムのニュースが大声で伝えられると、チェンストホバからの列車からユダヤ人と思しき乗客がすぐに引きずり出され、その場で殺害が始まった。/虐殺はわずか十五分ほどで終わり、列車は目的地にむけて発車した。」(第三章)

あたかもウイルスが感染するように憎悪が伝わり、殺戮の風が吹き荒れては去っていくかのようではないか。

本書は、著者がある奇妙なエピソード群に出会うことから始まる。ナチス占領時代に危険を顧みず隣人であるユダヤ人をかくまっていた善意のポーランド人たちが、戦後その勇敢な行為を誇るどころか、周囲の同じポーランド人たちにひたかくしに隠していたのだ。彼らがユダヤ人の庇護を秘密にしたのは、それが発覚すれば周囲の民衆から罵倒され、最悪の場合殺されることさえあり得ることが分かっていたからだ。

ヨーロッパ最大のユダヤ人人口を持ちながらナチス占領時代のホロコーストを経てその9割が消えたポーランドだったが、この人類史始まって以来の忌まわしい所業を目にしていながら、ポーランド民衆の間には実は戦前から脈々と存在していた反ユダヤ主義思想が、ナチとともに滅びるどころかますます深く根付きポピュラリティを獲得していた。
それは、”共産主義はユダヤ人がもたらしたもの”とする「ユダヤ共産主義」なる陰謀論、中間産業に従事し富を独占するユダヤという古典的偏見に基づく反感、さらには「ユダヤ人はキリスト教徒の子供をさらって血を搾り取る」という中世にまで遡る噴飯ものの伝説などを巻き込んで、恐るべきポグロムを準備することになる。

そうして記されるキェルツェ・ポグロムの事件次第は実に空恐ろしいもので、ルワンダ虐殺を描いたゴーレイヴィッチの著作「ジェノサイドの丘」を想起させる(本書中でも引用が出てくる)。
だが一方、広範な事実を一つ一つ検証しながらじっくり論を進めていく筆致は、政治的に微妙な問題を扱っている書として充分な慎重さをもっていると思え、それがもたつきや読みにくさというのではなく、しっかりした読み応えとして受け止められるものになっている。
終章で提示されるポグロムへ到るポーランド民衆の心理的要因の分析『ポーランド人はユダヤ人を傷つけたが故にユダヤ人を憎んだ』という説は、一見不思議なのだが最後まで読み進めていくと非常に納得でき、しかも納得できるが故に一層恐ろしいものだ。我々はこの話を東ヨーロッパの特殊な社会状況下のエピソードとして他人事として読めるのだろうか?

戦後の反ユダヤ主義とスターリンが取ったユダヤ人排斥政策により、9割の人口を戦争で失ったポーランドのユダヤ人は、ついにその生き残りさえも国外に脱出してしまった。
筆者はポーランドのこの状況を、ホロコーストの立役者たちが案出した悪名高いナチスの用語を使って「ユーデンライン」(ユダヤ人が存在しない状態)と表現したが、これが精一杯の皮肉というだけですまないのは、例えば戦後のポーランド人の中にはこのように述べた者もいたことからもわかる。
「単一民族国家を達成できたという点では、ヒトラーに感謝する」

東ヨーロッパ現代史というマイナーなジャンルだからと読まないのは勿体ない一冊と思った。

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