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1月 05, 2010

辻邦生「嵯峨野明月記」ほか読了記

小説などを3冊ほど読了。

・辻邦生「嵯峨野明月記」(中公文庫)

 江戸初期に出版された本阿弥光悦・筆、俵屋宗達・画、角倉素庵・版による豪華書巻群「嵯峨本」。この出版事業に到る、3者の人生を流転させる歴史の大波と、その谷間で積み重ねられた彼らの美への探究を描く長編小説。
 織田信長の上洛から本能寺の変、利休の自決と秀吉の朝鮮出兵、関が原合戦と大阪夏の陣に到る日本史の大局面の足下、京にあった3者はそれぞれ。明智との密通者と関連したり、扇面への絵付けに耽溺したり、異国交易に情熱を燃やしたり、歴史の流れに身を投じたり背を向けたりとめまぐるしく流転する。
 俵屋宗達が扇に絵付けをすることについて述べる以下の描写には実に感じ入った。

「おれは平坦な四角い画面にむかうと、妙にその四隅の空白が気になった。それは、その四隅の空白が、どこまでも無限に拡がっていて、そこへ踏みこむと底なしの虚空に落ちてゆくような不安が感じられたのだ」 「それに対して、この扇面図柄は、おれの心の充満を、そのままそこへ濃厚につめこんで、なお溢れるような躍動を盛りあげることができる。」「扇面はいかにも厚手の、がっしりした容器のようであり、おれの心の煮えたぎる思いを確かな手応えで受けとめてくれた。」

 こうしたカンバスとしての扇面へのこだわりといった美術表現も、朝鮮撤兵を巡る大名らの綱引きの如き「歴史」もいずれ劣らぬダイナミズムをもって描出され、この対比がまた素晴らしい。嵯峨本が南蛮渡来の技術を使ってわが国史上最も初期に手がけられた「活版印刷」であったというあたり、メディア史の先触れに繋がっていく流れさえほのめかされ、非常に内容豊かな小説だった。辻邦生のこの美と歴史を絡めていく筆致の加減は、個人的にとても大好物。

・角田光代「トリップ」(光文社文庫)


・明野照葉「澪つくし」(文春文庫)

辻邦生の大著にくらべていずれも短編集で、いずれも正味2時間くらいで一気に読んだ。
「トリップ」は郊外のきわめて平凡な商店街を中心に、外見的には平凡な人生を送っている人々のように見える登場人物たちの内面生活をつないでいく連作。こっそりLSDにはまる主婦のストーリーが、同じ精肉店でコロッケを買うヒモ青年のストーリーと一瞬だけ交差して次の話に続いていく構成が楽しい。楽しいというのも申し訳ないくらい登場人物たちはべったりと包囲する日常環境の中で逼塞しているのだが、重苦しくならないのは描写のうまさか。
「澪つくし」もまた外見的には平凡な人々が登場するが、こちらは彼岸の世界と接触する怪異譚を集めたもので、山岸涼子の怪異マンガを彷彿とさせるというと分かり易いか。スクリーミング的な描写は一切なく、心理描写の積み重ねの中にほのかなネットリ感を漂わせながら次の展開に結び付けていく筋はこびが実に上手い。
いずれも初めて読んだ作家だが(角田光代はエッセイ「あしたはアルプスを歩こう」を読んでるけど)、別の作品を読みたいなと思わせる一冊だった。

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