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9月 26, 2009

豊田正義「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」

けっこう前に読んだ殺人事件ルポルタージュ本だけど、あまりに衝撃的でなかなか飲み下せず、書けなかった一冊。不快な部分も多いと思うのでこの種のネタがいやな方は以下は読まない方が良いかと。

 読むだに、2000年代に報じられたうちで間違いなく最も忌まわしい事件であり、恐らくその事件が明かした人間の非人間性への恐怖としても歴史に残り得る事件との思いを新たにする『北九州連続監禁殺人事件』のルポルタージュ。取り憑かれたように一気に通読し、翌日はまったく仕事にならずという恐怖の書であった。

以下の新潮社のリンク先で「まえがき」が読める。
http://www.shinchosha.co.jp/books/html/136851.html

 7人もの人間が犠牲となったこの事件の主犯・松永太は、女を糸口にその家族親族に取り入り、その家を金主としてあらいざらい金を絞り取る詐欺師というところに犯罪者としての出発点があったのだろうが、この男のもつ天性の嗜虐性と、人間を意のままに操るマインドコントロールの才、更に自分では決して手を汚そうとしない強烈な自己保身性向は、遂には家族の金のみならず人間性そのものを収奪し、奴隷化し、遂には自発的に肉親同士を殺し合わせる暗黒の所業を行うに到らせる。
 筆致としては格別な表現があるわけではなく、証言によって明るみに出てきた事実をただ淡々と書き記していく感じなのだが、それだけに起きた事件そのものの恐ろしさが際立ってしまう。
 最も恐るべきであるのは幼い姉弟同士を殺し合せるくだりであるのはamazonレビューなど見ても衆目の一致するところだが、個人的に最もイヤだったのはむしろ、一家の人々が人間性を奪われ、ゾンビマスター操るゾンビのように意のままに従わさせられていく過程だ。一家の中で最初にマインドコントロールに取り込まれ、主犯の松永の意のままに家族を殺していった内縁の妻・緒方純子が、凄惨な家族全滅に到る前の段階でいったん死のアジトとなったマンションから出て、湯布院で働き始めるくだりがある。
 親切なスナックのママに雇われ居場所を見つけた純子だが、親からの電話で「夫が自殺した」と聞き、すぐにマンションに戻ることを決意。マンションでは家族だけの内々の形で夫の葬儀が営まれており、残された遺書を読まされて夫が既にこの世にないことを確信する緒方純子だが、その瞬間、押入れの中から死んだはずの夫が出現し、「かかれ!」という号令をかけるや、それまで黙って葬儀をすすめていた両親と実の妹が襲いかかって来る…。
 いつのまにか松永の支配下におかれた自分の肉親たちが罠である偽葬儀に加担しており、号令ひとつで自分を捕らえる尖兵と化して飛び掛ってくるこの悪夢的なくだりは、黒々としたこの事件の中でも何か特段な忌まわしさを感じるシーンだ。

 文中でもしばしばナチスの強制収容所におけるマインドコントロールシステムの例が参照されるのだが、この主犯・松永の考案した電気ショックによる人間支配システムは、まさに一人ナチスというべき残虐なものだ。いずれのシステムも、一般社会の秩序から隔離された空間のなか、独自の序列構造に人々を動員して互いが互いを密告したり裏切ったりさせ、下位の序列から上位の序列へ登りたがらせるよう仕向けるのだが、畢竟このようなシステムは頂点に立つものが自分の座を脅かさせないために構築したきわめて恣意的なものであるにも関わらず、取り込まれた人々は反抗の意志を奪われ、意のままに従ってしまう。
 さらに、このようなシステムが確立したときに人間は肉親同士の殺し合いさえも実行してしまうものだという、心胆寒からしめる事実が明るみに出されるのだが、これに関しては最早言うべき言葉も見つからない。
 人間とはこのような暗黒を生み出し得るものなのか・・・という畏れに貫かれ続ける読書体験であり、この本を読んだこと自体がトラウマに成り得る。間違いなくここ数年で最も印象深く(印象に残したい積極的な希望はないのだが)、怖ろしく思った一冊だった。


Wikipedia:北九州監禁殺人事件

北九州市の監禁・殺人事件

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