「ハリウッド監督学入門」(★★★★)
中田秀夫監督のビデオドキュメンタリー「ハリウッド監督学入門」をイメージフォーラムで見た。
http://www.bitters.co.jp/hollywood/
自作「リング」のハリウッドリメークであるゴア・ヴァービンスキー監督作のさらに続編「ザ・リング2」(ハリウッドオリジナルのシナリオなので、高橋洋脚本による日本版のように、プールサイドで『貞子~ッ!おれを食え!』とか叫ぶヘンなジジイが出てきたりはしない・・・が、それだけに印象の薄い映画だった)を監督した経験から、ハリウッド映画という産業はいかに「Movie」という商品を製造するのか、それは我々が思ってるような、また日本の映画産業がやってるようなやり方といかに違うのかということを検証していくドキュメンタリー。
数々の証言者たちが中田監督にハリウッド映画産業のさまざまな側面を語ってくれる。証言者は、ドリームワークスのプロデューサー、ウォルター・パークスから現場の編集やらグリップ担当者やら、更には違う現場で同様に日本から来た映画人として仕事した清水崇監督と一瀬隆重プロデューサーまで。
全編は、監督がこれぞハリウッド的映画作法だと考える「グリーンライト(映画の企画にスタジオからのGoが出ることを言い表した「青信号」の意)」「カヴァレッジ(監督がコレと決めたアングルに留まらず、全方位のアングルやサイズで押さえの画を撮っておく技法)」「テスト・スクリーニング(最後の編集前に一般観客に完成映画を見せ、アンケート結果によって更に編集に手を加えるためのテスト試写)」の3つに章立てされているが、やはり興味深いのは「グリーンライト」の章。
万全のシナリオと最高のスタッフを取り揃えていても、待てど暮らせど企画に青信号が灯らない。待ってるうちに企画を買ってくれていたスタジオの首脳陣が交代してしまい、また一歩めから歩き直すはめになる。なにしろ、新しい首脳陣からすれば、映画がヒットすればその企画を買った旧首脳陣の手柄に、コケればGoを出した新首脳陣にその責任がのっけられるから…というわけだ!
「日本なら、プロデューサーが家を抵当に入れて覚悟を決めれば一本の映画を作れなくはない、しかしハリウッド映画ともなると、一プロデューサーの覚悟ではどうにもならない」という一瀬隆重の証言にもみられるように、強烈にビジネスが支配し、大人の事情が充満するのがハリウッド夢工場の現場であるらしい。
コーエン兄弟の初期の傑作「バートン・フィンク」でもハリウッドに買われ西海岸に移住するも、自作シナリオの映画化はただただ遠く、ひたすら待たされるだけの脚本家の悪夢が描かれていたが、中田監督もバートン・フィンクの苦汁をなめた模様である。プロデューサーに「もうこれ以上待たされ続けるのは御免だ」と吐露し続けるも、プロデューサーの方は「そうは言うが、私からすればこの企画は前代未聞のスピードで進んでいたよ」と考えていたりする。企画は2年は結実しないのがザラであり、平気で5年やそこらは置いておかれたりする。年に3万5千本のシナリオが集まる広大な選択肢をもったハリウッド映画なのに、いや、だからこそ、なのだろうか?
しかしまあこの想像を絶するメンドクサイ環境の中にいながら果敢に映画づくりを続けるプロデューサー、エージェント諸氏の横顔は実にしたたかでたくましい。彼らの働きが映画史に残るのかどうかは別に置くとして、ハリウッド映画作りの現場で監督・制作者であり続けるということは、非常に優秀なプロジェクト・リーダーの資質がなければできないことなのだろう。その意味ではプロジェクト管理の仕事などやっている人には畑違いながら意外と面白く見れる映画かもしれない。
「カヴァレッジ」の章ではデレク・ジャーマンやケン・ラッセルとも仕事した撮影監督ガブリエル・ベリスタインのコメントが印象的だ。「アングルを決めるのは本来監督の仕事。ヴィスコンティもフェリーニもそうしていたが、ハリウッドでは全アングルからのショットをとりあえず撮っておくのが重要。そのために金があるんだから」という。
「ザ・リング2」の撮り方について尊敬すべき識見を述べ、間違いなくこの人は素晴らしい撮影監督なのだろう、と思わせる彼にしてから、こうしたハリウッド的作法を受け入れている。編集者のマイケル・クニューは「現代の映画においてDVDは重要な収入源で、我々もスクリーンより家でDVDを見る層を意識せざるを得ない」と言い「シーンがワイドショットで提示される場合、観客は見るべきポイントを発見するまで時間がかかる。クローズアップなら一目瞭然だ」という、いかにもハリウッド的な視点からの編集作法を述べる。
他にもさまざまな興味深すぎる証言が続き、飽きさせられることはない。合間合間にさしはさまれる中田監督の放浪とも見えるウォーキングのシーンや、イスラエル出身の整体師との会話も「ハリウッドで映画を撮るのがいかに疲れる作業か」というイメージを伝える役割を果たしているようでおもしろい。
日曜昼のイメフォには私含めて3人しか観客がいなかったが、なにも映画監督を目指していたり、ハリウッド進出を目論む若者だけが見るべきドキュメンタリーではなく、いち観客が見ても非常に興味深い内容と思う。
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