「クラッシュ」(★★★★☆)
仕事をはやめにあがって、新宿武蔵野館でポール・ハギス監督「クラッシュ」を見た。
昨日みた「ミュンヘン」にひきつづき、こんなにいい映画ばかりタテ続けに見てしまうと目が肥えちゃってまずいなと思うほど良かった。
映画「クラッシュ」の舞台となる、人種差別の緊張と9.11以後の不穏さを胚胎したロス・アンジェルス(この映画ではその街の名前も重要なキーワードとしてストーリーに影響する)では、人はみな全て語るに値する物語をもち、自分なりの物語を展開する動機を持っている。それら複数の物語が焼け付くような緊張感を保ちながらこすれあい、交通事故さながらに衝突しあうことで、さらに一層パワフルなストーリーが生み出されていく。「こういう映画に出会うために自分は劇場に通っているのだ」と言う人は多いだろうし、そういう人にとってはまさに待望の一本になるはずだ。
ドン・チードルが主演という以外はほとんど何の予備知識も入れずに行ったところ、豪華でツボをおさえた俳優陣で驚き。
以下、同様に情報を入れずにみたいという人のために、俳優名は19世紀小説風の伏せ字で表記したい。
何といっても印象に残るのは、最近イーサン・ホークにすっかり同系のいい男としてお株を持ってかれた感のあるマ**・****だ。彼の物語はいかに人間は一面でとらえることが難しいか、いや、人間はいかに移ろいやすくふとしたきっかけで善をなすこともあれば悪をなすこともあるという深みを伝えており、またその描出のされ方も唯一無二のものである。私は大してこれまで気にかけていなかった役者だが、この一本で大いにマ**・****を見る目が変わったと告白したい。対照的なラ****・*****の物語も同じ理由から印象的ではあるが、描写が傾注されているのはマ**・****の方である。サ***・****はこれまでの彼女の印象からは想像のつかない配役で、たしかに演技だけとれば同じ役をジュリアン・ムーアが演じたほうが30倍くらい良かっただろうと思われるものの、夫君役であるブ****・*****とともに、地位と栄誉を持ちいっぽうで内容を持たない金持ち夫婦という役柄にハマってみせ、逆に他の女優ではこううまくいっただろうか?と思わせる絶妙さを醸し出していたと思う。
ほかにも、幼い愛娘とベッドの下で語らうシーンが素晴らしいマ***・***、ぶちキレてのちに哀しいテ***・****も感涙を誘うが、なにより、この映画に製作から関わったドン・チードルの、砂漠の寒風の中でマフラーを揺らしながら孤独に屹立する姿が印象的である。
映画「クラッシュ」は、なによりも人間のストーリーであり、彼らの会話、立ち姿、視線がドラマを創造するという意味で、まことに映画らしい楽しみを満喫できる一本だ。
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