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4月 05, 2006

海野弘著「陰謀と幻想の大アジア」読了

海野弘「陰謀と幻想の大アジア」読了。先般読んだ「陰謀の世界史」の流れで読んだ一冊だが、安彦良和のマンガ「虹色のトロツキー」の副読本として読むのに格好の一冊でもある。

「虹色のトロツキー」は満州・建国大学に石原莞爾がトロツキーを講師として招聘しようとしていたという記録に材を得て、ノモンハン事件までの満州を舞台に展開する関東軍の謀略を主軸にした物語だが、ここに当時の多彩なイデオロギーや民族の思想が交錯して交響楽を成す傑作である。
この中に、大連特務機関長安江大佐と海軍の犬塚大佐による、満州ユダヤ人国家創立工作が登場し、「危険なユダヤ人」であるトロツキーを巡る謀略と絡んでくるのだが、このユダヤ人国家設立の陰謀が「陰謀と幻想の大アジア」の劈頭を飾る。

他、出口王仁三郎と大本教の一派による蒙古独立工作や、孫文の説いた「大アジア主義」とそれを日本帝国主義的に読み換えた「大東亜共栄圏」構想など、安彦良和の一連の日本近現代史を扱った作品群を好む向きにはこたえられない一冊ということになるだろう。

著作全体としては、政治と無縁ではありえない学問(この本では主に歴史学)の性質を無視して戦中・戦後と展開してきた結果、アジアを考える日本のアカデミズムの中に紛れもない戦中的なイデオロギーが残留していることの発見が、テーマとしてはより重要である(このテーマでは江上波夫の騎馬民族国家論や、梅棹忠夫の文明史観などが例となっている)。
また、これらアジアを巡る戦前の「陰謀」の歴史をどう私たちは嚥下してゆくべきなのかという問いや、戦後「大アジア」的な想像力を自ら封じるあまり国際的・文明史的な構想力を捨て去った日本人は果たして正しかったのか、という問いなどには感銘を受けさえした。

「陰謀の世界史」よりもぐっと好著だと思う。安彦ファンだけでなく、日本の近現代史に興味のある向きに広くおすすめ。

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