私は美容室が苦手だ
いい加減髪の毛が伸びすぎており、切りに行きたいながら連日仕事で行く時間を作れずにいたのだが、今日ようやくばっさりカットしてきた。
それにしても久しぶりに行くとやはり「美容室」という場所は私にとって居心地のよくない場所であると感じる。体に染み付いたような萎縮、華やかなその場から疎外された感覚。
おそらく実際の所、私の冴えない風采…例えばセーターの随所にほの見える毛玉であるとか、原色に近しい色であったかつてを想像すべくもないスニーカーの色褪せぶりなど…が煌々とした照明の下に露わになり演出される場違い感もさることながら、最大の理由は私の中の圧倒的な髪型ポリシーの欠如にあると思われる。
いったい30年も生きており、その間使いもしない世界史単語(ポトシ銀山とか)を脳みその引き出しにぶちこみまくってきたくせして、いまだに私の髪型指示に関するボキャブラリーは「刈り上げない程度に短く」ぐらいしか存在していない。
隣のカット待ちの男性が、雑誌などを示しながらテキパキと前髪の長さ、色、スタイリングなどに関する自分の考え方を述べ、担当美容師と今回のカットに関する方向性を詰めつつあるかたわらで、この私はといえば
美「どのぐらい切りましょうか?」
私「ええと…ずいぶん伸びすぎちゃったので(←見れば分かる)、さっぱり切ってほしいんですが…(←著しく具体性を欠く指示)」
美「……伸びた分くらい切りましょうか?」
私「そうそう、それでお願いします!(←必死)」
などと、主張のないことおびただしい。
この打ち合わせとも言いなりともつかない時間をとおして、自分がこれまでの人生でいかに髪型に関して脳と時間を使っていなかったかに思い到り、ハサミを自分の生業として生きていこうと決めた目前の青年に対する申し訳なさに満たされるのである。
美「あ、シャンプー別料金になるんですが、どうしますか」
私「あ、結構です」
美「シャンプーなしですね。髪、スタイリング剤とかついてないですか」
私「ついてない…つけてないです何にも」
いささか強調しすぎた私の口調に微妙な表情の美容師。
はっ!…またしても髪に関する配慮の無さを露呈してしまい、やりがいのない仕事という印象を彼に与えてしまったのではないか、等とまたしても萎縮する自分。
このようなわけでカット台に向かう前から既にたっぷりと引け目を感じてしまうのである。
もうこんな感覚を味わうくらいなら、最初から回転仕事前提で気など使おうはずもない1,000円カットでいいのではないかとも思うのだが、以前1,000円カット行った翌日の職場で
「うーん、なんともいえない坊ちゃん感があるね」
などと評された屈辱もあり敬遠してしまう。
といって、男ならやはりバーバーに行くべきだろう、と駅前の「理容室 ヤング」(←実在)の戸を叩こうかと思ったこともあるが、ガラスに貼ってある具志堅用高のようなパンチ&ヒゲ男のイラストなどを見ると、心もとなくなってしまう。
そんなわけで、どこかにこんな私でも萎縮を感じずに髪を任せられるお店はないものか…と髪を切るたびに思うのである。
いっそ「髪型について普段何にも考えてない方!私たちは日頃のスタイリングまで優しくご指導致します」…とか店頭に書いてあれば安心なんだが。
メッセージの隣に吉岡美穂が写ってても良い。アデランスみたく。
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