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8月 15, 2005

「ヒトラー/最期の十二日間」(★★★☆)

出版界では「不況の時にはナチものが流行る」という定説があるのだと、以前某K社に就職を決めた同い年の学生から聞いたことがある。このご時世、アドルフ・ヒトラーという人種差別主義者と愛人エヴァ・ブラウンのあまりにも有名な総統地下壕での自決をめぐる話など、どれほどの人が興味を持つのだろう?と思うのだが、渋谷シネマライズだけでなくユナイテッド・シネマとしまえんでも公開されるのだから、それなりに売れると踏まれたのだろう。これも不況ゆえだろうか。

このオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の映画「ヒトラー/最期の12日間」でヒトラーを演じるのはドイツの誇る名優ブルーノ・ガンツ。なかなかのうまさを見せる。単なる戯画化の対象ではなく、健康のために酒もタバコもやらなかった菜食主義者のヒトラーが、帝国の崩壊と何千万もの人々の怨念を受け、体躯と精神を蝕まれていく様を一種のリアルさをもって描き出してみせた。感銘を受けるという類の演技ではないのだが、それもそういうやり方を選んだということだろう。
ブルーノ・ガンツの演技よりも、もう一人の主人公である女秘書役のアレクサンドラ・マリア・ララの際立った美貌が印象に残る。エヴァ・ブラウンが彼女と別れるシーンは、殉死者のある種いさぎよい諦観をうかがわせて意味深い。一方で総統と一家もろとも運命と共にするべく子供達に毒を飲ませるゲッペルスと夫人の行動にはおぞましいものがあるが、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督はそれらを特に持ち上げたり引き下げたりすることなく、淡々と描いていく。総統地下防空壕の中は、いっとき世界を支配しようとした独裁国家が終焉に向かって運動する様の、抽象化された縮図のようである。
しかしその外、ベルリンの街路では、迫り来るソ連軍と絶望的な決戦を戦う首都防衛のドイツ兵がおり、一方でゲッペルスの命で、無力な年寄りを民兵に参加しないかどで銃殺していく親衛隊が跋扈している。抽象化された政治の殿堂で「ドイツ民族は最後の一人まで戦闘する、戦争下に市民などいない、それで死ぬ者は所詮それだけの弱者だ」と語るヒトラーとその側近には、その抽象がもたらした、何千万のドイツ民族と何百万のユダヤ民族の死の意味に、考えを及ぼし得る能力があったのだろうか?
そして、それが彼らにもとより不可能なことだったのであれば、それほどまでに政治権力を極大化させ、人としての人智を越えた神学めいたものへと政治を変貌させた罪は、一体だれに、何に対して問えば良いのだろう。

そんなような思いも致してしまう、堅いが意味のある映画だった。

 (余談)

映画のモデルとなった秘書、故トラウドゥル・ユンゲ女史は、戦後自分たちの罪に対して向き合うことをしないままに過ごしてきたが、ある時、自分と同い年の少女の墓碑銘を見て自らの「無自覚」の罪を悟ったという。
少女の名はゾフィー・ショル。ミュンヘンの大学生時代に、ナチスが支配するドイツの中にあって兄弟たちとともに「白バラ」抵抗運動を行い処刑された少女である。
映画の中で彼女の名前は唐突に出てくるので、未見の方はゾフィー・ショルの名前くらい覚えておくと、クライマックスでの感銘が増すかと思う。

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