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3月 24, 2004

森まゆみ「鴎外の坂」

森まゆみ「鴎外の坂」はなかなか味わいある評伝だった。作家に親しみを持てて、その人が好きになるような評伝という意味では出色のものではないか。猪瀬直樹の「ペルソナ」とかも面白いが、あれを読んで三島由紀夫にこんな風な親しみを感じることは有り得なかった。

「森鴎外」というと何となく明治の代表的知的エリートで、なんと言うか高踏的、超越的な人というイメージがある。
この前に読んだ「青年」にしても、それはもう外国語は使いまくる、ショオペンハウエルであるとかユイスマンスであるとかの西洋人は余裕で顔を出し、読むものに教養を強いるかのごときつくりであった。しかしもう片方で、何かいつの時代になっても変わらぬ「青年」というドーブツのなさけない低回ぶり(ってファンの方ごめんなさいね)に、やけに親近感を覚えてしまうような小説でもある。
それもこの小説が、「芸術」と「生活」(「思想」と「生活」でも良いが)という、水と油のようでもあるけど二つを丸抱えにしていかなければ生きていかれない、そんなやっかいな二つの柱のぶつかり合いを話の根本に据えているからだろうと思われる。

この評伝を読むと、鴎外自身が知的エリートたらんと打ち込む「芸術」の柱と、よき家庭人たらんと気を配る「生活」の柱を丸抱えにして試行錯誤していた姿が見えてきて、なるほどこのような人から「青年」のような小説が生まれるのかと合点ができる。同時に、読んでいくうちにいつのまにかそんな試行錯誤を、微笑みを忘れずに生き抜いてきた鴎外という人の素敵さに、すっかり鴎外さんのファンになってしまう。
著者は鴎外の家族や友人をまず描き、その描写の中に鴎外その人を反射させていくという手法をとっている。それはこの「文豪」を、やたら神格化したり美化したりせず、ていねいに輪郭を描出していくための手法として有効に働いている。
特に、子供たちに微笑む鴎外はとてもお茶目でかわいい人だ。小さいわが子をよく連れて歩いた鴎外に、近所の子たちも「あ、森さんのおじさんだ」と挨拶して、そのたび鴎外は丁寧に挨拶を返したそうである。

途中には川崎という小さい荒物屋があった。杏奴が類に「何?何なのよ」と聞いたら、店にいる小僧が「何?」と口真似をした。それからは通ると必ず小僧が「何?何?」と呼びかける。鴎外が「あれはなんだ?」というので訳をいったら大変面白がった。「何小僧」と仇名をつけ、通るたびに店の中をのぞいて笑った。

ここには、「明治の文豪にして陸軍軍医総監」という何かいかめしいイメージとはまったく関連のない、ほほえましい姿がある。

同時に弟の篤次郎や友人原田直次郎を通して描かれる、鴎外を囲む人々の交流といった部分もまた、ひとつの明治期のサロン的文化のドキュメントといった風に読め、面白い。
著者森まゆみさんの最高のフィールド、谷中・根津・千駄木の地理的描写や土地の人への聞き書き、そしてこの土地への愛情がふんだんにちりばめられているのも素敵である。得るもの多く、また心にも残る良い評伝だった。

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