パリの灯は遠く(★★★☆)
NHK-BS2でジョセフ・ロージー監督「パリの灯は遠く」を見る。
フランス・イタリア合作。
冒頭、全裸の中年女性が、白衣を着たセルロイド眼鏡の医師に、奇妙な形の定規で顔面を測定されるシーンで始まる。
昆虫の四肢でも測るような冷たい視線で医師が定規のふたつの突起部分を女性の鼻に押しあてたりするたびに、女性の疲れた顔面が歪む。ひどいとか残酷だとかいったアンティパシーをも呼ばない、ただただ不気味な場面だ。
医師が人種的特徴をフランス語で述べ、女性の助手がそれを書き留める。
セム族、ユダヤもしくはアラブの疑いがある・・・といった科白で、ここはヴィシー対独協力政権下のフランスであることがわかる。
眠かったしビデオもまわしていたので特にそのまま見る気はなかったのだが、この奇怪なシーンに魅了され、途中眠気と戦いながらも最後まで見てしまった。
アラン・ドロン演じる美術商ロベール・クランはフランス人だが、手元に自分の名に宛てられたユダヤ人新聞が配達されたことから、警察にユダヤ人の疑いをかけられる。
警察の尋問を受けたり、自ら調べていくうちに、本当の配達先である、同姓同名の見も知らぬ男の存在が見えてくる。
美術商ロベール・クランは警察の嫌疑を晴らすために、第二のロベール・クランの行方を追ってパリの街を探し回っていく。
郊外のシャトーに住み弦楽四重奏を聴く浮世ばなれした貴族たち、夫を戦線で亡くした借家の管理人、不気味な動線を描いて走り回る警察車両などの奇妙なものたちが、美術商ロベール・クランの前途をあるいは塞ぎ、あるいは通過していく。
探索行の中で、ロベール・クランはもう一人のロベール・クランを、何か自分にとって特別な存在であるかのように感じていく・・・。
なにか末世じみたただならぬ雰囲気のパリの街や、華麗な室内美術、ジャン=ピエール・メルヴィルのノワール映画を思わせる警察の不気味な描写など、様々な見所のある映画だ。
ラストシーンの、この世の地獄に横滑りしていく人々の顔といったら、たとえようもない。
顔で始まり、顔で終わる映画である。
怖い。
調べてみたら、1976年のカンヌでパルム・ドールを授賞している作品だった。
by k-tanaka
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Tracked on January 06, 2005 at 06:30 PM
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映画『パリの灯は遠く』を監督したジョセフ・ロージーはコミュニズムを思想・信条としていたことから、1950年代のいわゆる「ハリウッド赤狩り」でアメリカ追放の経験を持ち、自らもアメリカ人としてのナショナルな生き方より、外国において非ハリウッド的な作品を創作する道を選んだ気骨ある映画人です。そして、この困難の中でやむを得ず、四つもの氏名を使用しなければならなかった体験は、『リング』で有名な中田秀夫が製作・監督したドキュメンタリー『ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男』に描かれています。
追... [Read More]
Tracked on December 03, 2005 at 09:42 PM

Comments
TBさせていただきました。
トム(Tom5k)といいます。はじめまして。
「パリの灯は遠く」は、とても怖い映画でしたね。当時のヨーロッパは本当にこの作品のような雰囲気だったのだと思います。
わたしも、ジャン・ピエール・メルビル監督の「影の軍隊」にこの映画と似た印象を持ちました。
Posted by: トム(Tom5k) | December 03, 2005 at 10:17 PM