永遠の語らい(★★★★)
日比谷シャンテ・シネでマノエル・デ・オリヴェイラ監督の最新作「永遠(とわ)の語らい」を見る。
御年95歳!それなのにザクザク新作を撮っているこの活発さはいったい何事だろう。
パンフをみると、1990年の「ノン、あるいは支配の虚しい栄光」以来一年一本のペースである。2001年にはミシェル・ピコリ主演の「家路」(これは私も見た)のほかにさらに一本撮っている。
働き盛りの年齢でも、こんなに撮っている監督はなかなかいないだろう。スゴイ。あるいは、オリヴェイラ監督にとっての働き盛りというのはまさしく今のことなのだろうか。
<以下、ネタバレっぽいものあり>
世界で最も美しい女優の一人であるレオノール・シルヴェイラがリスボン大学の歴史学教授に扮し、8歳の娘とともに地中海文化の名跡をたずねる船旅に出る。
客船はポルトガル、ポルトの港を出て、大航海時代の記念碑を眺めながら文明をたどる船路につく。
マルセイユでは、ギリシア人がこの港から欧州に文明を広めたことを記念する石畳を足元において母娘は語らう。
ナポリ、ポンペイ、アテネのアクロポリスの丘で、ヨーロッパの文明の淵源をたどりながら、好奇心いっぱいに母親の話を聞く8歳の女の子。
すっかり観客もこの女の子と母親の視点とともに、文明の風をたどる船旅をともにしている気分になることだろう。
船には、途中の寄港地で映画史を彩る女優たちが乗船する。
マルセイユではカトリーヌ・ドヌーヴが乗船し、ナポリではステファニア・サンドレッリ、ギリシアではイレーネ・パパス。たとえようもなく映画的に豪華なこの顔ぶれが、船長であるジョン・マルコビッチのテーブルで語り合うシーンがこの映画のひとつのクライマックス。
4人の語り合いは言語の壁を越えた交歓であり、それぞれがフランス語、イタリア語、ギリシア語、英語で思い思いに話すのだが、会話は成立する。
「知的な女性が統治する世界」をゆめみるこの会話は、アクロポリスの丘にかつて立っていたという女神像の逸話とオーヴァーラップするようだ。
また、女優というミューズの庇護のもとにある、映画という芸術そのものとも重なるだろう。
しかし、こうした文明にたいする楽天的な考えには、少しひっかかるものを感じることも確かである。
オリヴェイラはそうした楽天ぶりにたいして、非常にショッキングなラストをもって応える。
監督自身は、このラストは「無償の愛」がもたらした悲劇だったと語っているようだが・・・
単純にこの映画が映画監督の「絶望」を語っているといってしまっては、あまりにも早計にすぎるというものだろう。
ヨーロッパ文明が築きあげてきたものの上にある人々(そのなかに監督も含まれる)が、まったく違うものたちに対しアプローチすることの困難さ、これは思いとして伝わってくる。
しかしアテネの丘で母娘を丁寧に案内してくれたギリシア正教の神父が、遠い古典古代にこの丘でささげられた異教の信仰を敬慕とともに語る姿、そして彼が3本の指で十字をきるしぐさの意味を好奇心いっぱいに聞くカトリック教徒の母娘の姿勢は、オリヴェイラ監督が今後の文明に可能なものとして映画の中に種まいた「調和」の原型のひとつでもあると思われる。
深々と頭を垂れて考え込まされる映画だった。
by k-tanaka
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